This is it

舞台大好き。映画も大好き。私の見たもの日記のようなものです。

「トンマッコルへようこそ」

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あんにょんです。

初夏の薫りが香る 日曜日。
こちらの舞台に行ってきました。


映画も舞台もいいってずっと前から聞いていたのに、
なかなか見ることがなかったこの作品を、
まさか日本で、しかも日本人キャストで見るなんて思いもしませんでした。

朝鮮戦争の話を日本で日本人が演じることへの違和感を猛烈に持っていて、
「こんな茶番」と、偏見の目で傍観していたんですが、
韓みゅーちんぐちゃんから、
「本当にすごくいい!」と勧められて見に行ったわけなんですが、
そんな偏見を粉々に打ち砕いてくれました。

偏見持って本当にすみません。

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席に着いた瞬間から、森の中のような不思議な空間に癒されました。
あの瞬間からもう、舞台に引き込まれていたのね。

この作品は、語り部の作者のお父さんの子供時代の話で、
冒頭の導入部分で、少年だったお父さんと、
村の人たちと米軍、北と南の兵士が仲睦まじく写っている古い写真を見て、
作者が驚くシーンがあるんですが、
なぜか私、ここですでに泣けました。

朝鮮戦争真っ只中、絶対にありえない光景。
そんな奇跡の光景に


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多分、私はこれを思い出してたんだな。

「生命の航海」
北の諜報員チョンミンと南の兵士へガンのこと。

元は同じ村に住む幼馴染だったのに、
袂を分かつしかなかった2人。

2010年にこちらのミュージカルを韓国で見た時、
それまで歴史の授業でさらりと教わった事柄が、
初めて悲惨な現実として心に刺さったのでした。
それまで仲の良かった友人同士が、
二つに分かれて争わなければならない現実。
この2人を包んでいた厳しい状況と、舞台とが重なって、
胸が詰まってしまったのでした。

でも「生命の航海」は、韓国軍の作った作品だから、
2つに分かれた朝鮮の悲劇と言いつつも、
南を正当化したお話でした。←当たり前

でも、トンマッコルは違うんですね。

北の残酷さとそれに従事した兵士たち悲劇と、
南の残酷さとそれに従事した兵士の悲劇が、
平等に描かれていて、
どちらも悲しい現実に阻まれて泣いていると言うことを訴えていました。

戦争の残酷さと悲劇は、
上の人間たちの意地の張り合いが、
すべてそこに住んでいる市民たちに降りかかり、
罪のない人たちばかりが死んでいくと言うこと。

実際戦っている兵士たちは、
軍服を脱いでしまえば、どっちがどっちかわからない。
同じ民族だもの。当たり前。

そこに瞳の違う人間が入ったところで、
人間と人間同士で向き合えば、何が違うのか。

舞台の中では、来たと南を分つ境界の山奥の村に
それぞれの理由で迷い込んだ北と南と米軍の兵士が、
一緒に農作業をすることで、手を取り合うようになる様子が描かれています。

最初は殺し合いをその場で繰り広げようとするほど逆立っていた兵士たちだけど、
場違いとも言えるほど能天気な村人たちと触れ合うことで、
その緊張が少しずつ解け、
仲間になっていき、最後は爆撃の標的になろうとしている村を、
手を取り合い、命を書けて守る。

ベタと言えばベタなお話なんですが、
緩急つけた展開と演技が絶妙で、どんどん引き込まれてしまうんですね。

お互いに毛を逆立てて、争っても何も生まれず、
緊迫した空気の中で、
笑顔で接する村人の脱力感にホッとして癒されて、
結局、笑顔が一番強いのだと気づかされる。

キナ臭い今の世界。
日本だってもう他人事ではなくなりそうなそんな危うい今に、

もう一度、大事なことは何か、
自分たちにできることは何か、
そんなことを教えてくれたような気がしました。

ラスト、北と南の兵士が、
死を覚悟して戦地に赴く時、

「俺たちも連合軍ですか?」

少年兵の一言に号泣でした。

その一言に、
今、世界の抱える問題を解く鍵のすべてがあるような気がしました。

おとぎ話といえばおとぎ話。
でもおとぎ話は、何よりも真実が書かれていると思うのでした。

演じている俳優さん、誰も知らなかったけれど、
素直に感動できるいい舞台でした。

たった1週間しか上演されないなんてもったいない。
席も残念ですが空席が目立ちました。

興行の成功、芸術の成功、そして演じている俳優同士のケミ。

「グランドホテル」のインタビューだったかな?
主役を演じた成河くんが言っていた言葉。

その3つが成功する舞台を、今の日本で作るのは難しいなと思う今日この頃。
芸術的で、いい俳優がいい演技をしている作品が、
売れずにどんどん消えていき、

投げつけたくなるような作品なのに、
満員御礼で再演されたりする。

「グランドホテル」を観たときも感じたことを、
この作品でも感じてしまいました。

本当にいい作品が、
もっとたくさんの人に観てもらえる機会が欲しいね。
オフイーストエンドや、オフブロードウェイみたいなところが、
日本にもあったらいいのに。

長くやってこそ良さが見えてくる作品もたくさんある。

本当に期間が短すぎるよ。
そんな中、ギリギリで逢えて本当によかったです。

心からありがとうと言いたい。