Thrill Me〈スリルミー〉東京公演レポ〜12月
Thrill Me〈スリルミー〉
東京公演:12/14~1/14(内12/17,12/20,12/27,1/4,1/10,1/13)
キャスト
私:成河
彼:福士誠治
ピアノ:朴勝哲
待ちに待っていたスリルミー。
Wキャストだったけれども、柿松(柿澤彼と松下私ペア)を観たら、絶対に成福(成河私と福士彼のペア)をすぐに観たくなることはわかっていたので、あえて成福ペアのみの観劇に最初から決めていました。
成福ペアを見たのは東京公演の6回。
成河くんは、インタビューで「全てはパワーバランス。立ち位置が変われば相手も変わる。」って話していたけれど、文字通りそうでした。
どちらかが変われば、もう一方も変わり、それによって話も変わっていく。
それが見るたびに変わるから見る側もいい意味で翻弄される。この楽しさは1回観ただけじゃ味わえない醍醐味ですね。
それはこの作品だけに限ることではないけれど、2人とピアノというシンプルな構成だからこそ、相手の影響が色濃く出る。6回観れば6通りの違う私と彼に、私は翻弄されまくりでした。←それを人は沼と言う。
1、妄執編(12/17)
53歳私の回想。
彼は完全に私の頭の中の彼であり、故に余計な感情は持たない。
私が知る彼の感情は大きく、私が知らないことは無感情。
自分の主張を抑えて、「私の中の彼」になりきった福士彼はすごいなぁと思った。
そう、彼は私の頭の中の記憶。
まだ演技が固かったからだ、という説もあるけど(笑)
色濃い成河私とバランスが良いからよい。
舞台に無気力に立つ53歳の私。
照明の使い方も巧みだけど、表情筋や瞳の輝きを変えて初老の顔を作り上げる成河私には驚愕。
そしてその後、一瞬にして19歳に戻った私が、ピチピチキラキラで、また驚愕する。
どうやったら身体能力だけで年齢を超えられるのだろう?
そこにアンチエイジングのスキンケアのヒントが隠れている気がする(笑)
とにかく初回は、現在と過去の私の演じ分けに圧倒されて終わってしまったような気がする。
ただ、53歳ではなく70歳くらいに見える?まあ、疲れ果てた男としてはいいのかな~。
渇望した愛に囚われ、未だに固執する私。
19歳の私はキラキラしていたけれど、彼の心の中にとてつもない孤独を感じて、
愛というより、彼は私にとって唯一の居場所、私の世界の全てであり、
それに縋り付いているように見えた。
でも、彼の気持ちを考えるとか思いやるとかそういうことはなくて、
ただ、彼を求めることに固執していた。←だってそれがなければ生きていけないから
それが寂しく切ない。
家族に愛され、自慢の息子だったはずなのに、なぜそれほどまでに孤独だったのか。
彼は自分を理解してくれるただ一つの存在であり、
自分もまた彼を理解できる唯一の存在と信じていた。
そして34年後、彼を失った後でも変わらず、
自分の罪に後悔しながらも、その妄執にしがみついて抜けることのできない私。
釈放され自由になっても、彼の幻を追う私が痛々しかった。
2、交わることのない愛(12/20)
とにかく私は私、彼は彼だった。
そこに愛情の交流はないが、確かに愛は存在していた。
愛というにはあまりに悲しい求めるだけの愛。
福士彼は相変わらず「額の中の彼」だったけれど、確かに彼も私を愛していた。
傲慢で、絶対的な主従関係。
私を完全なる力で支配することが彼の愛だったような気がする。
そこに、思いやりはない。
それなのに、彼にすがるように従う私はいったいなんなのだろう?
成河私を見ていると、切なくてただただ胸が痛かった。
それは、私にとって彼がこの世にいなくなって私には彼しかいないということだ。
私がどんな環境に置かれていたかは問題でなく、
ただ、私の世界には彼しかいないと言うことが辛かった。
自由ってなんだろう?
成河私がつぶやく「じ・・・ゆ・・う?」はあまりにも無機質で、
改めて自由の意味を考える。
誰もいない世界には自由など存在しない、あるのは孤独だけだ。
だから34年の月日が流れ、全てが終わった後も、成河私は福士彼を求め続ける。
でも、悲しいのは、やはりそこに彼への思いやりはないということだ。
お互いに愛しているのに、交わることのない愛。
求めるだけの愛の行き着く先のその闇が虚しく寂しかった。そんな2人だった。
3、恐ろしさとは幼さ(12/27)
突然、虚しい関係が色づいた。無邪気に彼を慕う19歳私と
背伸びをしたい見栄っ張りな彼。
とにかく彼も私も幼かった。
彼は私をただ支配したかった。
子供が可愛くて子犬を叩いたり引っ張ったりするように。
そして「キャン」と可愛くなく声に快感を覚えるのだ。
ストレスのはけ口を、私に求めることで心の平安を保とうとする彼。
そして私は、ただ、彼と一緒に居たかった。叩かれようが、耳を引っ張られようが、
彼に纏わり付いて離れない子犬のように。
支配されることが=愛だった。傷つけられた痛みも苦しみも、私には恍惚な時間だった。完全なるSとMの関係。
歪んだ愛だとしても、足りないものを求め合える幸せなカップルだったのに。
子犬のように彼の足元で戯れる私。
彼は頭を撫でて褒めてもらいたかった。ただそれだけ。
だけど彼は最後の道を踏み外してしまった。
踏み込んだ道が間違っていることはわかっていたけれど、
それを止められない私も転がっていく。
でも私は、どうしたらいいの悶えている時に、ふと、気がついてしまった。
大好きな彼と2人だけで永遠に居られる方法を。
目指してものは 理想の場所
もし行けたなら
いつまでも2人 永遠の時間 そう信じてた。
無邪気な笑み。
子供が欲しいおもちゃを見た時のようなキラキラした瞳にゾッとする。
そして、裁判が終わり護送車の中で全てを彼に告げた時。
そのおもちゃを手に入れたように、喜びに満ちた笑みには悪意のかけらもなかった。
子供は純粋で、残酷だ。
そして自分の欲求に素直で、迷いがなく、手段を選ばない。
僕のこと見直したか?・・・こわくなったか?
それは狂気ではなかった。
ただただ、純粋に「君が好きなんだ」と笑う私の幼さは、もうホラーだった。
それを目の前で突きつけられた彼の恐怖を思うと、身の毛がよだつ。
成河私の中で、私が一番怖いと思った「私」だった。
福士彼はというと、打算と狡さを知っている分、良くも悪くも私よりも大人だった。
だから、全てを打ち明けられて笑顔の私に迫られた時、後退りながら私を見つめる瞳が
我に返る=大人になるのがわかった。
幼い二人の世界から、彼が出ていく瞬間を見たような気がした。
34年の月日を経て、「大人になった私」が、あの頃を振り返る時の悔恨の涙が切ない。