「フランケンシュタイン」レポ~2人のアンリ・ディプレ
12/5(土)マチネ
ビクター・フランケンシュタイン:パク・コニョン
アンリ・ディプレ:ハン・チサン
12/5(土)ソワレ
ビクター・フランケンシュタイン:チョン・ドンソク
アンリ・ディプレ:パク・ウンテ
後半のこの2公演は本当に素晴らしかったです。
最初に観たドンソクビクターと、ウンテアンリは、
気になっていた箇所が全て改善されて、
ガラリと変わって、しっくり馴染んでいました。
コニョンビクターとチサンアンリは、
独自の「男の世界」を作っていました。
コニョンビクター、年齢的にも演技的にも、
一番「王道」なビクターだと思いました。
そして素直に物語の世界にどっぷりはまった時、
チサンくんとウンテさんの違いが、
舞台を大きく変えていることを痛感し、
こんな風な感想を書いてみました。
あ、良い悪いじゃなくて、
お話がウンテさんの回とチサンくんの回と全然違うんです。
(と感じました。)
チサンくんも好きだけど、
やっぱりウンテさん偏愛の私ですから、
解釈にもかなりの隔たりがありますが、よろしかったらどうぞ。
とりあえず、1幕、アンリから行きますね。
アンリは物語の布石です。
ウンテアンリは、高い志と優れた技術を持つ優秀な医師。
命に対していつでも真摯に向き合い、
何ものにもぶれることなく自分のポリシーを貫く強い心を持つ。
しかし、戦場では、次々と担ぎ込まれるけが人を
何もしてやることができないまま死なせてしまうことに、
己の無力さをいつも責めている。
「ただ一つの未来」
♫미세한 세포를 복제하는 화학적 유전자 돌연변이
微細な細胞を複製する化学的遺伝子突然変異
그것이 생명의 정체
それが生命の正体
ビクターの示す生命の定義に、
♫오직 신만이 정하는 질서에 기대어 보존되는 생태계
ただ神のみが決める秩序により保存される生態系
그것이 생명 불변의 법칙
それが生命 不変の法則
神の領域だと、諌め、
♫인류의 최후가 다가온다
人類の最後が近付く
위기의 세상 갈구하는건
危機にある世界 渇望するのは
새로운 구원자야
新しい救世主
自らがその救世主になると言うビクターに
♫그건 단지 허울좋은 교만일뿐
それはただ見かけのよい傲慢にすぎない
과학은 생태계를 유지할 뿐!
科学は生態系を維持するだけ!
과학은 그 비밀을 밝혀낼 뿐!
科学はその秘密を明かすだけ!
금단의 사과를 먹었던 것처럼
禁断のりんごを食べたように
인간은 언제나 유혹에 빠지지
人間はいつも誘惑に堕ちていく
당신의 신념도 야망일뿐!
あなたの信念も野望にすぎない!
冷静に、その考えは危険だと警告したアンリ。
彼の元々の考えはコレなんですよね。
(そしてこの歌は後々、2幕の歌とついになっているんですが、それはまた後で。)
それなのにビクターの考える生命創造に対して強い反発を示した彼が、
なぜビクターに傾倒していくのか?
それは、アンリも同じように世界に絶望を感じ、
みんなが幸せになれる世界にしたいと心から願いながらも、
何もできない自分に無力さを痛切に感じていたからなんですよね。
根底が違っていたことより、世界を救いたいという気持ちに強く共感し、
揺るぎない彼の自信に強く惹かれていく。
そして、「頼む、友よ」というひと言に彼に全ての心を許してしまうのだ。
「友よ」
最初はビクターにとって些細な一言だったかもしれない。
しかし孤独の中にいる人は、そんなたわいのない一言に自分の居場所を見つけて、
まるで藁にもすがるように求めてしまうものなのだろう。
一瞬浮かぶ頬の緩みや、ビクターを見つめる視線に、
そんな心が滲み出る。
それが、カトリーヌの話を聴いて、少し変わる。
憧れだけの対象が、実は自分と同じ孤独の人だったということに、
強い共感と、この出逢いに運命すら感じて、
何があっても彼を守ると決意するんですね。
実験に失敗して、酒に呑まれているビクターを見る彼の瞳は、
そんな決意とともに、初めて彼を対等の目線で見て、
ビクターこそが自分の居場所だと確信する。
アンリにとって、最高に幸せな一瞬だったと感じます。
一方、チサンアンリは、
ひたむきに命と向き合い、自分の持てる力の全てでその命を救おうとする熱血医師。
まっすぐで素直で純粋で、そして情に厚い。
ウェットに富んで、誰からも好かれる愛嬌のある男って感じ?
天涯孤独の身でありながら、あまり孤独さが感じられないのは、
それをあまり気にしないで、
持ち前の明るさで生きてきたからなのかもしれませんね。
「ただひとつの未来」の歌の中で、
ウンテアンリ以上にビクターの考えに反発するんだけど、
揺るぎない自信の彼の前にやがて彼に傾倒し、彼の夢に共感していくんです。
この時点で、もう彼の目はビクターに釘付けです。
ここの態度は、ウンテアンリよりもはっきりしています。
そして「頼む、友よ」でノックアウト。
ヘレンの告白の時、少し残念なんですが、彼は棒立ちなんですよね。
それはヘレンの話を聞いて茫然としているのかもしれないのですが、
そこはあまり伝わらなくて。
もっともそこまで見える席は少ないし、
その部分はいらないといえばいらないんだけど、
その話にうろたえるように、その様子を傍観するウンテアンリの方が好きです。
で、その後のヘレンへの声掛けが、チサンアンリは大人っぽくて冷静で、
反対ウンテアンリは、自分にとってのビクターを語るうちに我を忘れそうになって、
彼への想いを溢れさせてしまうのが可愛いのです。
思いっきりジャズっぽく、ウェットに歌って踊る「一杯の酒に人生を盛り」は、
チサンアンリの真骨頂ね。キュンキュンです。
すごく踊りもうまいんだもん。大人の色気を感じます。
そして意外にこの辺りも大人っぽく、やや上から目線でビクターを慰めるんですよ。
まるで学生時代の友達同士のような?
それは「きみに夢の中で」にも込められています。
牢の中で、チサンアンリは、「こうなる運命だったのさ。」と笑い、
「友よ・・・友よ!だからきみは僕の代わりに生きてくれ」と、
友情を叫んでギロチン台に上るんだよね。
そこに、太い男くさい絆を感じます。
ウンテアンリは、「こうなる運命だったんだ。」と弱々しく笑い、
正直に話せとすがるビクターを「僕がそう決めたんだっ!」と、押し切り、
「だから大丈夫だよ、友よ。」と、自分を責めずに生きてくれと願う。
そして夢を見るように
「僕らが出会った時のこと、覚えてるかい?」って言うんですよね。
(これって、ウンテアンリしか言わないんですよね。セリフすら、自由?)
♫너의 꿈 속에서
きみの夢の中で
가슴이 두근거려
胸がドキドキする
널 만난 그 순간 기적같아
きみに出逢ったその瞬間 奇跡のようだった
꿈꾸는 너의 두 눈동자에 난 눈을 뗄 수 없었어
夢見るきみの瞳に 僕は目をそらすことができなかった
そこから繋がる「きみの夢の中で」は、本当にビクターへの愛の告白そのもので、
泣かずにはいられないのです。
彼にとってビクターは、孤独の中の唯一の光だったんだなって。
だから、ギロチン台に登ることに後悔はないけれど、
彼と別れることが寂しいって顔で振り向いて。
うう、切なすぎるでしょ~!
この献身すぎる想いが、ビクターの最後の箍を外してしまうんだけどね。
2人とも演技あっての歌だと、
演技をとても大切にしているのがよくわかるんですが、
その表現や姿勢が全く違うのがとてもおもしろいです。
チサンくんは、シーン、シーンごとに集中してそのシーンを盛り上げる。
だから彼の登場で舞台がパッと明るくなり、歌には常に魂が宿り、
舞台も心も熱くなります。
ウンテさんは、常にアンリで居続ける。
舞台の端々でも、頭の先から爪の先までアンリであり、
恐らく舞台の袖でもそうなんだと思う。
彼の演技には一貫性があり、リアルで、繊細で、
丁寧にアンリという人物を演じていて、
だからこそ、この後怪物に変わった時の演技に
深い意味を感じることができるんです。
歌やセリフのない場所でも、(そんな場所にこそ)
彼の動きや表情には意味のないものはないと感じられて、
その意味を見逃さないように、目も耳も全て彼に釘付けになります。
その違いは、そのまま「JCS」のユダとジーザスそのものだと感じてしまいました。
チサンくんもウンテさんも、それぞれの解釈とこだわりがあって、
比べることなんかできないけれど、
私はやっぱりウンテさんのそのアンリに涙を流してしまうのでした。