This is it

舞台大好き。映画も大好き。私の見たもの日記のようなものです。

Blue/Orange まとめと感想1〜3/31と4/7

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Blue/Orange

 

ブルース:成河

ロバート:千葉哲也

クリストファー:章平

 

沼にハマることはわかっていたんだけど・・・。

2回見たところである意味「スリルミー」よりも深い沼のような気がする。

これ、ヤバイやつやん。

そんなわけで、自分の中のまとめを兼ねてこまめにまとめようと思います。

 

1回目:3月31日(日)マチネ ウラ側2列目のセンター席

2回目:4月7日(日)マチネ  ウラ側最後尾下手席

 

ここまでの感想と、ポイントまとめです。

 

◼️ストーリー


医者と患者、白人と黒人、支配するものとされるもの・・・

境遇の違う3人、ブルース、クリス、ロバートの3人の三つ巴のパワーゲーム。

というか、正確に言えば、クリスの言動に振り回される2人の話。←おおざっぱすぎ。

 

HPによるストーリーをお借りするとーーー

 

ロンドンの精神病院。

境界性人格障害のために入院していたアフリカ系の青年クリス(章平)は、研修医ブルース(成河)による治療を終えて退院を迎えようとしている。しかしブルースには気がかりなことがあり、退院させるのは危険だと主張していた。

上司のロバート医師(千葉哲也)はそれに強く反対し、高圧的な態度で彼をなじる。納得のいかないブルースはクリスへの査定を続け、器に盛られたオレンジの色を問う。

彼はそのオレンジを「青い」と答えた――

 

◼️登場人物


クリストファー

アフリカ系の青年。境界性人格障害の発作的症状を労働中に起こし、

病院に強制収容され、セクション2(最大28日間の治療を要する )指定されている。

彼にコミュニティはなく、家族もいない。


彼には2人に対して何か関係を持とうという感情はない。

言うなれば、2人の中心にある支点。重りなんだよなぁ。

それなのに、感情の揺らぎでフラフラと動くから、

その先でバランスを取る2人の立ち位置も常に危うく、その身を守るごとく態度を変えるから、

見ているこちらも振り回され、今どんな状況なのか常に頭をフル回転しないといけない居心地の悪さ。


彼の診断名、境界性人格障害

彼の人格が変わるのは、自分を守るための防衛反応であって、そこに彼の意思はない。

ただ、心に負った傷の原因となる言葉から自分を守るように反応する。

黒人、もしくはそれを罵倒するような言葉

気狂い、もしくは自分を否定するような言葉

家族、もしくは自分が孤独であることを指摘する言葉

 


ブルース

1ヶ月前に精神病院就職したばかりの心療内科の新人研修医。

仕事に対する情熱と誇りを持ち、純粋に病気と向き合おうとしている。

結婚もしたばかりで、夢と希望に満ち溢れ、上司とも上手く付き合い、

次のステップへ順調に進む野心もしっかりある。

白人の中等階級。常識的で一般論を唱えるいわゆる普通の善良な人。

若さと情熱で正当性を猪突猛進に振り回す。怖いもの知らず。

 


ロバート

ブルースの上司。師匠で、友人でもある。

それなりに力も持つ病院の上層階級の人。ロバートが目指す目標でもある。

一見気さくで人の良さそうで、実は利己的で野心家で狡猾な狸親父。

しかし世の中の仕組みを知っているからこその一種の防衛本能でもあり、

己の保身と医師としてのプライドの間で常に揺らいでいる。

 


◼️意見の相違

 

ブルース:統合失調の疑いを感じ、入院を延長させてさらに検査するべきだと確信している。

ロバート:疑いだけでは入院延長はできない。ベット数や経費の問題からも、

                  彼に課せられた28日間が終わったら退院させたい。

 

→イギリスの精神病院では収容した患者に「セクション」というランクをつけ、

     そのランクにより、収容日数と治療が決定される。

      クリストファーは「セクション2」と診断され、規則に則り28日間の収容治療を終えて、

      明日退院する予定・・・というところから舞台は始まる。

 


◼️ブルースとクリスの関係

 

ブルースは彼の症状に疑問を持ち、純粋に治療の継続が必要だと考えているが、

どこか医者としてクリスを見下した感を感じる。

クリスの境遇に同情し、心の傷を癒して病を治してやりたいというまっすぐな気持ちも感じつつも、

自分が隠れていた病気を見つけた高揚感と、「俺が治してやる」という傲慢さが匂う。

そして、クリスの「俺が黒人だからっ!」という叫びに「違う!」と言いながらも、

彼に対して差別的な視線を送っている。そして、それに彼は自覚がない。

クリスは支離滅裂で破天荒な振る舞いで、正常と異常の境を行ったり来たりしながらも、

ブルースの心を全て見透かしているように見える。

もしかして、彼の心の傲慢に反抗するように、人格が入れ替わっているのかもしれないとさえ思う。

 


◼️ブルースとロバートの関係

 

上司と部下。師匠と弟子。

個人的にも親交を持つ仲の良さ。→お互いに下心ありの親交。


ブルースの情熱と実力はロバートも認めている。

だからこそスーパーアドバイザーになろうとした。

でも、彼の馬鹿正直さは自分の足を引っ張る邪魔な存在になるとわかれば、

容赦なく切り捨て、利用する。

 


◼️ロバートとクリスの関係

 

人格がころころ変わり言動に信憑性がないのもわかっているはずなのに、

ついそれを鵜呑みにしてしまうロバート。

でもそれは、ブルースを疎ましく思っている邪な心がそうさせるのかもしれない。

そんなロバートを唆すように、ブルースの言葉を歪ませて囁くクリスは、

実は悪魔の化身じゃないかとも思う。

そしてそんな囁きに飛びついて、歪んだ言葉をさらに歪ませて

クリスに植え付けるところが浅ましく、醜い。そしてゾッとする。

人を陥れるには最高で最悪な画策。でもそれはそれは諸刃の剣。結局ミイラ取りがミイラになる。

そんなロバートは浅はかで滑稽だ。でも笑えない。

 

 

◼️身が凍る恐怖、そして怒り

 

発せられた言葉が誰かの憶測や願望、そして画策によって湾曲されることの恐ろしさ。

そんなつもりじゃなかったのに、想いとは裏腹に、歪んだ言葉だけが一人歩きしていく。

同じセリフが、全く違うニュアンスの言葉に変わることを見せつけられて、

人ごとではない恐ろしさに身が縮む。

 

でも、多分、「冗談」とか「比喩」とは、どこかでそう思っていることの証でもある。

根底にあるブルースの心。「違う」と否定すればするほど肯定される。

ロバートに湾曲される前から、クリスはそれに気がついていたし、傷ついていた。

だから、ロバートによって画策されたクリスの告発は半分嘘で半分本当なんだ。


出る杭は叩かれる。

足元をすくわれる。


そして歪んだ考えを植え付けられたクリスは、心を閉ざす。

不信感に心を閉ざした彼に何をどう伝えても、何も伝わらない。

「違う」「そうじゃないんだ」

それは半分本心で半分嘘。全部本当ならそんな言葉は出てこないんだ。


暖簾に腕押し。糠に釘。

 

辛い。喪失感。焦れば焦るほど空回りし、心を開けば開くほどそっぽを向かれる。

無力感、虚無感。

彼を思う心だって本心だったはずなのに、もう一方の本心が爆発する。

 

心無い酷い言葉をクリスに投げつけるブルースを見て、最初は卑怯なタヌキおやじだったロバートが

急にまともな大人に立場の逆転する不思議。

 

「なんでこの病院にはクリスのような若者で溢れかえっているんだっっ!」


この一言にロバートの医師としての良心が本心だと気づかされて胸が熱くなる。

ブルースでなくても「ロバート・・・ロバート・・・先生」と言いたくなる。

 

国への病院への社会への、どうしようもない叫びに、胸を突かれる。

病んでいく若者たちを救うことのできない無力感。

ロバートだって卑怯なことをしたけれど、卑怯な奴ではないのだ。

かつては彼も患者と向き合っていた姿が見えて、切なく共感する。

それなのに、初回観た時は「それなら、ロバート、あなたはどんな答えを出すの?」と

切実に答えを求めていた私の心を代弁するように、差し出だされたブルースの手を、

唾を吐くように一瞥してスルーするロバートに突き放されたような悲しさを感じた。


でも2回目の成河ブルースは、クリスへの差別とエゴがずっと見え隠れしていたので、

ここのクリスへの酷い言葉は「あ〜あ、とうとう言っちゃったよ。」だったから、

急にいい人になった千葉ロバートの一言がとても重く、その答えに納得せざる終えなかった。

決して賛成ではないけれど。

本当は何が必要なのかわかっている。

でも、できないならどうするべきか。→安楽死の法則=できるだけ楽な状態にしてやること

 

「勇気を持って」

それが唯一の処方箋。

それは無責任な言葉ではなく、彼らができる精一杯の誠意なんだよなぁ。


結局、何も変わらないクリス。

限りなく危うい未来を見せるような言葉を残した後、

不安そうに出て行く彼を、「大丈夫」と送り出すロバートと何もできないブルース。

それは、今の社会の危うさを重々感じながらも何もできない私たちそのものに見えて薄ら寒くなる。

 

何かできないのか?

それが最善なのか?

そんな問いかけをしながら見ていると、クリスが出て行った後、残った2人が答えを出す。


目には目を。歯に歯を。

同じ穴のムジナ。


「それでいいんかいっ!」って、コレ、怒っていいんだよね。

舞台の間中ずっと、彼らの抱える問題に自分を重ねて、舞台と禅問答していたのに、

最後に投げられたこの結末に、2回とも悶々としてスッキリしない気持ちで舞台を後したけれど、

 

でもそれも今の社会の仕組み。

怒りを持って、自分はどうするか。

「こんな世の中だけど、生き抜くために、じゃああなたはどうする?」って、

それはそちら側からの問いかけってことですかね?

 


◼️次回の課題

 

じゃあ、どうすりゃいいの?