タージマハルの衛兵〜プレビュー初日
2019.12.2 ソワレ
作:ラジヴ・ジョゼフ
翻訳:小田島創志
演出:小川絵梨子
〈出演〉
フマーユーン:成河
バーブル:亀田佳明
〈あらすじ〉
タージマハル建設中のムガル帝国。
その完成前夜から始まる物語の登場人物は、フマーユーンとバーブル、たった2人。
タージマハルの建設現場で夜通し警備をする、幼馴染でもあるふたりの会話からは、
美と権力、支配者とレジスタンス、国への忠誠と個人の尊厳など、多くの問題をはらみ、
時間が経つにつれて次第にスリリングになっていきます。
ある枠組みの中に生きる人間が抱える、普遍的な葛藤を描く物語。
(HPより)
最初に感じたことは大切だから、次を見る前に書き留めておきます。
ネタバレ満載なので、その辺OKな方だけご覧くださいね。
〈感想〉
何が素晴らしかったって、とにかくセリフがひっかかる場所がひとつもなく
するすると耳に流れてきてほんとうの会話のように聞こえたこと。
しかも2人ともとても綺麗に話すから、セリフがクリアでとても聞きやすくて
ストレスフリーでした。本当最高❤️
プレビューで、このクオリティだから、本番入ったらどうなっちゃうんでしょうね?
作品の方は、コメディあり、シリアスあり、グロテスクだったり、哲学的だったり。
浅く観ても楽しめるし、深く見ようと思ったらどこまでも深みにはまりそう。
お前は強い
俺は弱い
お前は弱い
俺は強い
何度も繰り返し発せられるセリフが頭の中をぐるぐる回っていました。
強いってなんだろう?弱いってなんだろう?
言葉を臆することなく発することが強さなのか?
我慢して長いものに巻かれることが弱さなのか?
自由奔放で思ったことを口に出すバーブル。
絶対的な王政の中で、口に出す言葉の一つさえも緊張する世界でも、空想の世界で羽を羽ばたかせ、どこまでも自由。
亀田さんのバーブルはどこか幼さを残した迂闊者といった感じで、
寝坊してきた彼は衛兵服の紐を掛け違えてあくびをしている。
それに対して、いろんなしがらみにがんじがらめでまじめなフマーユーン。
ガチガチの頭で、だからこそ考えることは毒だと考える。
剣を抱えてピシッ立つ成河くんのフマーユーンは、直立不動で肩が上がっている。
多分、バカがつくほど真面目に任務を遂行しているんだろう。
危険な発想を無防備に口に出すバーブルにしかめっ面をするフマーユーン。
だけど、バーブルを注意しながらも、ついつい彼の話に惹かれてしまうお人好し。
本当は彼の頭の中でもバーブルと同じようにさまざまな考えが浮かんでいて、
心は自由を求めているような気がした。ただ、表に出さないだけ。
国家という「全」を前に「個」を殺してる。
それが平和でいられる最善の策だと信じている。
だから、「個」を重視するバーブルに憧れながらも疎ましさを感じている。
私はそんなフマーユーンにとても共感を覚えました。
バーブルは、最初はそれこそ迂闊者にしか見えないけれど、
そう見えて、時折ストレートに突き刺さる言葉を放ったりするから、本当はとても頭のいい自信家なのかもしれない。
そんな彼のことを私もウザいヤツだとちょっと思ってしまったところがあった。
でも終わった後、なんとなく考えていたら、彼はフマーユーンの気持ちをよく理解していたからこそ、彼に歯がゆさを感じてたのかもしれないとも思った。
彼の言動は衝動的で、煽動的で、突発すぎて、フマーユーンでなくてもハラハラしてしまうけれど、それはフマーユーンが押さえつけている心を解放しようと挑発しているのかもしれない。
亀田さんのバーブルは自由すぎるけれど、フマーユーンをみる瞳は優しくて。
だから、自由に振る舞えないフマーユーンの肩の力を抜かせたかったのかもしれないと考えたりした。
2人の掛け合いは、コントのように面白くて微笑ましいけれど、巨大な力が彼らを押さえつけている。
タージマハルは「美の象徴」であると同時に「全=権力の象徴」でもあるんだなって思った。
そして彼らを支配する社会は、様相こそ違えど私達を取り巻く現実と嫌になる程重なってみえて、彼らに突きつけられる理不尽な問題が、そのまま観ている私たちにも「おまえならどうする?」と言わんばかりに突きつけられる。
多分、社会と言うのは「個」のとって普遍的にこのような理不尽さを呈するものなのかも知れない。
そして、ずっと同じ道を進むはずだった2人は道を別つ。
強い、弱いなんてない。
正解もない。
ただ、自分の選択によってそれぞれ対価を払わされるってことなんだ。
私たちは選んだものに責任を持たなければならない。
ラスト、バーブルを失い1人で夜の門番をするフマーユーン。
片割れを失い、心にぽっかり穴が空いている。
鳥の声に、ふと2人で作った秘密基地を作った回想場面になり、
活き活きと笑うバーブルとフマーユーン。
2人以外誰もいない世界で、フマーユーンはありえないと思いながらもバーブルの夢に憧れた。
解放された心。そのときに見た鳥の美しさ。
瞳を輝かせその光景に酔うフマーユーン。その表情に涙が出た。
本当はだれよりも美を愛していた。
そして最も美しい美とは大切な人との思い出なんだ。
フマーユーンと同じように、過ぎ去った美しい思い出を遠く見つめる。
そんな風に思った最初の出会いでした。
答えのないものを突きつけられて、いろいろ想いを馳せる。
だけど、Orange/Blueよりも気分がすっきりしているのは、この作品がストレートに語りかけているからなんだろうな。
これからどうなるだろうか?作品も、私も。
楽しみでならない。