This is it

舞台大好き。映画も大好き。私の見たもの日記のようなものです。

奇跡の舞台「VIOLET」

 

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ミュージカル「VIOLET」

2020.9.4 ソワレ

ヴァイオレット#優河

リトルヴァイオレット#モリス・ソフィア

モンティ#成河

フィリック#吉原光夫

 

久しぶりに心を満たす舞台に逢えて、頭の中でいろんな想いがぐるぐるしている。

とりあえず、今の想いを綴りました。

 

昔読んだ「ぼくを探して」という絵本を思い出した。どこかが欠けているパックマンのような「僕」が、完全な丸になるために、自分に足りない「何か」を探す旅に出る話。


顔の大きな傷によって、人生が変わってしまったヴァイオレット。

黒人に生まれたために、差別を余儀なくされたフィリック。

2人のように外見に問題はないけれど、内側に何かが欠けているモンティ。

3人は形は違えど、欠けている「何か」を探している似た者同士が旅に出る。

まるでオズの魔法使いのようだ。


ヴァイオレットはドロシー、臆病なライオンのフィリック、そしてモンティはかかし。

でも、モンティが「世の中は汚い」と吐き出すように、おとぎ話じゃないところが好き。

そんな「汚い」世界で、傷つきながらも懸命に生きようとする心が強く美しい。


朝鮮戦争ベトナム戦争の時代の混沌とした時代のアメリカ。

差別や偏見にまみれながらも、強く立つ優河ヴァイオレットが素敵だった。

一癖も二癖もある父との確執。お互いに愛しながらも、どこからか歪んでしまった二人の関係を紐解きながら、自分の人生を新しくスタートさせようと旅に出る。

傷のせいで外の世界から拒絶されていたけれど、やられっぱなしで閉じこもっていたわけではない。

彼女の歌や振る舞いは、自分の住む街で、自分の運命に抗うように生きてきた強さを感じる。

ややヘソが曲がった感じが、逆にいい。

そのくせ、現実離れした乙女のような夢に支えられている危うさがいい。


自分探しの旅。

旅のお供のみつおフィリックは、体は大きいのにどこか卑屈でうじうじしていて、そこがすごく新鮮だった。

黒人の持つ悲しみと、それでも自分の人生を探そうとする強さが滲み出ていて、本当の黒人兵士に見えた。

バス旅行に出たものの、怖気付きそうなヴァイオレットの背中を押す彼のソロナンバーは、

とても懐が深くて、彼女だけでなく見ている全ての人の背中を押しているようで涙が出た。まるでバルジャンのよう。

彼女は、それに「父親」の面影を見て彼に惹れる。


一方、軽薄で悪態ばかりついて苛立たせる白人兵士の成河モンティ。

ちょこまかと動きまわり、ちょっかい出しては逃げ回って舌を出す姿は、まるで「夏の夜の夢」のパックのようだ。

軽やかで何の悩みもなく、どこでも躊躇なく飛び回れる羽を持っているようにも見えて、

2人には彼の存在が癪に触っただろう。

それなのに彼とつるんだのは、彼には「偏見の目」がなかったから。

どんな悪態をつこうとも、彼には差別心がない。

もちろん世間がどんな差別や偏見を持っているかもわかっていて、それについて同情する気持ちもないから、時に彼の言葉は辛辣だけど、ただ一人の人間として二人を見ることができる屈託のなさが、彼らを引きつける。

それが幼いといえばそれまでだが、そこに彼らは救いを感じていたと思う。


軽やかに跳ねまわりながら、「羽目をはずそうぜ」と自由への扉を開いて手招きする成河モンティのソロは、

外の世界に出ることを臆していたヴァイオレットの心を溶かす。

前半のモンティは、ヴァイオレットにとって外の世界への「扉」を開ける「鍵」だったと思う。

不思議の国のアリス」のウサギか気狂い帽子屋だね。


白人で、愛嬌があって、憎めないモンティ。

では彼には一体なにが欠けているのか?

彼にないのは「愛」だった。心がないのはブリキの木こりだけど、イメージ的にはブリキの木こりよりカカシ笑


愛に不器用で、愛を抱きしめることに臆病で。

多分本気で人と付き合ったことがない。

でもヴァイオレットと接し、抱き合うことで、彼の孤独を垣間見る。彼女に縋りなく彼に彼が過ごしてきた人生が見えるようで泣けた。


ザコンには違いないだろう。

母の愛を一身に浴びて育って子供時代。

だけどいつまでも子供のように思われるのが嫌で

反抗するように母の元から飛び出した彼。

母に一人前だと認められたくて、頑張って頑張って、グリーンベレーに志願するが、逆に母を泣かしてしまう。


「怖いもの知らずだけが取り柄であります、軍曹。」とフィリックにおどけてみせたけれど、

本当はとても恐れを感じている。それでも志願したのは彼女を喜ばしたかっただけなのに。

彼の軽やかさの裏に隠れている恐れと孤独。

ヴァイオレットがフィリックに「父」を見たように、彼はヴァイオレットに「母」の面影を見ていた。

彼女の慰めは、彼にとって欠けていた「何か」を埋めるに等しい癒しだっただろう。


「誰かに愛されたい。」「誰かに認められたい。」

3人が共通している想い。

3人の関係は友人であり、同志であり、愛をめぐる関係でもある。

楽しさ、苦しさ、見苦しさ。色々な感情が錯綜しながらも、最終的には思いやる関係が好き。


傷を治して新しい自分を手に入れることができなかったヴァイオレット。

でも、自分と向き合い旅したことで、過去の父との関係を修復し、傷つきながらも自分の道を歩き出す。

結局、フィリックの手を取るヴァイオレットだけれど、

「ちぇっ」と舌打ちしながらも、微笑んで姿を消すモンティに想いを馳せてしまった。←それは推しだからww


彼は彼女を手に入れることはできなかったけれど(そもそも、本当に愛していたかも不明。でもいいの。彼は初めて愛に触れたということが大事。彼は彼女を通して初めて人とまっすぐ向き合うことができたのだから)

彼はもう癒されてしまったから、それでいいのだと思う。最後の彼の微笑みはそれを物語っていた。


欠けていたものを、人との触れ合いの中で見つけて埋めていく。

人は一人では生きていけない。人と繋がることで、完全な自分を作っていくというメッセージは

今のご時世、折れそうな心を支えてくれたような気がする。


ただ、この後ベトナム戦争に行って、過酷な戦いの中で傷つくであろう彼の未来が心痛かった。←推しだからww

 

生きて帰ってきてね。そして私の嫌いな「クリス」にはならないで、自分の人生をまっすぐ進めますように。